メディアスクラムの渦
小川 この1年、籠池家ではあまりにもいろんなことがあったのではないですか。
籠池 よもやここまで世間を巻き込んだ大騒動になるとは、考えもしませんでした。いまとなれば、「あの時こうしていれば」と思うこともあるのですが、経験したことのない渦に巻き込まれ、誤った選択やボタンのかけ違いを重ねて、事ここに至ってしまいました。
その過程で、世間を騒がせただけでなく、安倍政権にまで多大なご迷惑が及ぶことになり、大変申し訳なく思っております。私だけでなく、両親も安倍夫妻に謝罪しなければならない。また、幼稚園の園児や保護者の皆さんをはじめ、周囲の多くの人にも、両親に代わってお詫び申し上げます。
小川 保守派を標榜し、安倍総理を敬愛しているとまで言っていた籠池泰典前理事長が豹変して、政権批判に及んだのは驚きでした。
籠池 両親の態度の急変については、ひとえに私と両親の判断ミスが引き起こしたことです。順を追って詳しくお話ししたいと思いますが、メディアスクラムの渦から逃れたくて選んだ選択肢が、ことごとく誤った方向に行ってしまった。
もちろん、最終的に進む方向を選択したのは自分たちですから、責任は負わなければなりません。ただ、全国的な報道の渦に巻き込まれ、野党や朝日などのメディアから雁字搦めにされていくなかで、地方の一幼稚園では対処しきれず、逃れられない泥沼にみこまれてしまったこともたしかです。
小川 前理事長の補助金の詐取容疑や、あたかも安倍総理や昭恵夫人が国有地売却に関与したかのような物言い、あるいは偽証に近い発言などについては批判されても仕方ありません。拙著、『徹底検証「森友・加計事件」──朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』でも、そこは厳しく書きました。
しかし、その前の段階、つまり教育内容についてマスコミから袋叩きにされ、国有地の問題もまだ疑惑の段階だったにもかかわらず、家の前も幼稚園の周りにも立錐の余地がないほどマスコミが連日押し掛けた。これが正しい報道の在り方だったとは全く思えません。
昨年の報道後の状況を詳しく伺いたいと思います。
籠池 私と両親は、事情があって2016年の10月に再会するまでの間、4年ほど疎遠になっていました。私の息子が4歳になるので、幼稚園に入れるならやはり森友学園の塚本幼稚園に入園させたいと考え、この時期に再会したのです。
園に行って父と久しぶりに昼食をともにした際、「翌年4月に控えている開校に向けて、いよいよ頑張っている」 「苦労もあったけれど、酒も断って、やっとここまできた」と話していました。父が小学校開設を構想し始めて、もう10年近く経っていました。
開校に影響があってはいけないと考えて公にしていませんでしたが、父は16年11月に敗血症になり、入院しています。馬力の要る仕事をしてきたから、体にガタがきたのでしょう。大丈夫かと心配していた矢先に、昨年2月の報道が出たのです。
小川 報道は一気に過熱しました。
編集部 朝日の第一報は、①国有地売却額非公表②新設小学校の教育内容③昭恵夫人が名誉校長という、のちに問題となる要素をすべて含んでいました。新聞は①と②が中心でしたが、テレビは③とも関連する塚本幼稚園の教育内容に集中していた。
幼稚園報道が過熱
籠池 取材が殺到していた一方で、運動会での選手宣誓や教育勅語を暗唱している園児たちの姿、そして昭恵夫人が塚本幼稚園に講演に来た際の映像などがどこから流出したのか、テレビで報道され、園に批判的な元保護者たちによる虐待や暴言の告発などが報じられていました。
「汚れたおむつを持って帰らされる」「犬のようなにおいがすると副園長の諄子氏に言われた」などなど……。たしかに、母は言葉がきついので反感を持つ方もおられるのはわかりますが、一方で教育熱心だと仰ってくれる保護者の方も多いのです。
小川 私も現地で、元保護者や園児を通わせていた親御さんに取材しましたが、厳しさと熱心さの両面を理解し、だからこそこの幼稚園に、という保護者の声を聴きました。卒業後も誇りに思っている方が多かった。このことはどうしても伝えたくて、拙著にも書きました。
前理事長が追い詰められてした虚言と幼稚園の評価は違う。私は、そこはしっかり読者に伝えたいと思いました。
籠池 報道の過熱ぶりに、どうもおかしな流れになってきたな、とは思っていたのですが、しかし私自身は誰がどのような情報を流しているのか、逐一追ってはいませんでした。
そのなかで、国会での追及も連日に及び、当初は「(森友学園理事長は)教育熱心な方だと妻から聞いている」と答えていた安倍総理が、2017年2月17日に「私や妻が関係していたら総理も議員もやめる」という国会答弁を行った。
この答弁は今年5月に「関係、というのは贈収賄のことだ」と真意が補足されましたが、当時もこの発言自体は特に問題なかったと思います。
しかし、国会は紛糾した。そのためでしょう、安倍総理が2月24日に、両親について「非常にしつこい」「教育者としていかがなものか」という答弁をされた。これについては、いま、当時の状況を考えれば十分理解できますが、当時は「それは正直キツイな」というのが率直な気持ちでした。
また、総理を支持していた父にとってもキツイ一言だったのではないかと思います。
小川 総理は、個人的には幼稚園も前理事長も知らない。だから一般論としての幼稚園の評価は、夫人なり保守の皆さんから聞いておられて好感をもっていたのではないですか。
しかし一方で、安倍事務所や夫人とのやり取りを総理が実際に確認したら、理事長側の働きかけが強引だったことを知って「非常にしつこい」という表現になったのだと思います。