67点 4巻が致命的に弱く、作者が作品に無惨に敗れた
画家が主人公で、対象となる人間存在に肉薄する肖像画を軸とする構想は、魅力的だ。
二部構成、文庫本で4巻だが、3巻までは、従来の村上作品のルーティ ンを打破しようとする新たな挑戦と可能性を感じさせる。
何よりも、特定の人間や霊的存在が突出して物語を支配してしまう「水戸黄門の印籠」の濫用が影を潜めた。迷える子羊たる主人公のみならず、副主人公たちも皆、それぞれに葛藤を抱え、未知の人 生を生きており、文体は簡素になっているが、久し振りに文学的密度と精気を取り戻している。
ところが、残念なことに最終の4巻が致命的に弱い。
村上は自ら生み出した人物たちに、従来にない弱さと葛藤とを与え、作品に未知の可能性を設けたが、 結局、そのことのもたらす「謎」を、従前通りの作法で回収しようとしてしまう。が、生きた人間とし の奥行きを与えられた人物たちは、そうしたステレオタイプの回収にはなじまなくなっている。
作者が作品に無惨に敗れる顛末と評することもできようか。
文藝評論家、社団法人日本平和学研究所理事長。昭和42(1967)年生まれ。大阪大学文学部卒業、埼玉大学大学院修了。第18回正論新風賞を受賞。主な著書に『約束の日―安倍晋三試論』(幻冬舎)、『徹底検証「森友・加計事件」――朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』(飛鳥新社)など。最新刊は『「保守主義者」宣言 』(扶桑社 )。