97点 弦楽四重奏のような小説
読後暫し凝然とし、体が動かない。静謐で深遠、完壁なアンサンブルによる弦楽四重奏のような小説 だ。
主題はこの上なく冷酷なのに、何と美しい人間への夢が語られていることだろう。
臓器提供のために生産されるクローン人間を、人間がどのように扱い、他方クローン人間たちがどんなに深い生を生きているか。テクノロジー至上主義のエゴを描く実験小説の体裁を取っているが、実際はテクノロジーへの警告小説ではない。私たち人間が、現に、死とい うゴールを定められ、この世という閉鎖空間に放り込まれ、社会的強制のレールに乗って生きている。
その内部で我々に愛、自由、深い魂の経験は可能なのか。
この小説の生々しさはクローン人間たちが正に私たちとして描かれているからに他ならない。
文藝評論家、社団法人日本平和学研究所理事長。昭和42(1967)年生まれ。大阪大学文学部卒業、埼玉大学大学院修了。第18回正論新風賞を受賞。主な著書に『約束の日―安倍晋三試論』(幻冬舎)、『徹底検証「森友・加計事件」――朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』(飛鳥新社)など。最新刊は『「保守主義者」宣言 』(扶桑社 )。