国基研は3月9日、33年前の世界的ベストセラー『大国の興亡』の著者でイエール大学教授のポール・ケネディ氏をオンラインのゲストスピーカーに招き、「米国は衰退するのか」というテーマで鼎談した。
果たしてアメリカは衰退しているのか。衰退は今後も続くのか。衰退は相対的か、絶対的か―。わが国の安全保障は米国抜きに語れない。米国の力を土台にして中国共産党の世界支配を食い止め、民主主義、法の支配、紛争の平和的解決などを守れるか、という問いほど、日本にとって切実なものはなく、全世界の命運を左右する重大事である。
「米国は強い国であり続ける」
ケネディ教授は、筆者および田久保忠衛国基研副理事長との討論に米コネティカット州にあるイエール大学近くの自宅から参加、2時間余りの意見交換で米国の未来への自信を示した。
米国衰退論は中国が盛んに強調、拡散する見方だ。豪州元首相のケビン・ラッド氏はフォーリン・アフェアーズ誌3~4月号で、中国の対米政策について「米国は確定的かつ不可逆的な構造的衰退に陥っている」との習近平国家主席の信念に基づいて展開されていると書いた。そのような考え方をケネディ教授は「米国の衰退は相対的であり、絶対的なものではない」と明確に否定した。コロナ禍が収まれば「(米国は)強い経済を回復し、米国民に繁栄をもたらし、政府への信頼を取り戻し、民主主義への尊重と敬意、国全体の安定につなげることが出来る」と強調したのだ。
しかし、米国の力の回復も中国との比較衡量で考えなければならない。例えば中国の猛烈な軍拡に米国はどう対処するのか。その問いに、ケネディ氏は答えた。
「米国の衰退を喧伝する中国は失望するでしょう。米国は台頭する他の国々と立場を共有することが必要になるかもしれませんが、それでも強い国であり続けます。バイデン大統領は同盟諸国との連携を重視し、日豪印、韓国などと海空軍の協力体制を実現して中国に警告を発するでしょう」
日米同盟の代替物なし
折しも3月15日、米国から国務、国防両長官が来日した。米政府が14日に発表した「堅固な日米同盟の再確認」という文書は、日本防衛への米国の関与を「絶対的」と明記する一方で、中国の挑戦に日米が協力して対応することの重要性を強調した。
ケネディ教授は、日本にとって中国との経済関係が悪化しても代替国はあるが、米国との安全保障関係が悪化すればそれに取って替わる国はないと述べた。そのとおりだ。この機を逃さず日本は米国と共に国防力強化に最大の努力をしなければならない。日本が地域の「力の空白」になってはならないのである。(2021.03.16 国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)