旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

イランとイスラエルは停戦合意をしたが、ホルムズ海峡封鎖という「最悪のシナリオ」は今後も残り続けるのだろうか。元衆議院議員の長尾たかし氏は次のような見解を示している。「イランはホルムズ海峡の封鎖ができない」。なぜなのか。


「力」が現実を変えるという事実

長尾氏によれば、トランプ政権は以前からイランとの裏交渉を継続していた。バンス副大統領やマルコ・ルビオ国務長官は、カタールの外務大臣を通じて、イランに「手打ち」の調整を働きかけていたという。この水面下の交渉が実を結び、トランプ大統領はイスラエルのネタニヤフ首相と電話で協議し、停戦をまとめたのだ。

カタールの米空軍基地に対し、イランがミサイルを発射した“報復”についても、長尾氏は「含みのある攻撃だった」と指摘する。

というのも、イランから事前に「攻撃する」との通知があり、発射された3発のうち2発は迎撃、残り1発も無害な地点に着弾。犠牲者もおらず被害も最小限で、「まるで儀礼的な攻撃だった」。米国側が和平の“出口”をすでに調整済みだったことを示唆しているという。

実際にトランプ大統領はイランからの米軍基地への攻撃を「弱い攻撃(weak response)」と表現し、事前通告への感謝を述べている。
「事前通告をしてくれたイランに感謝したい。これにより人命が失われることも、負傷者が出ることもなかった」

加えて、エネルギーの安全保障の観点も見逃せない。ホルムズ海峡が封鎖されたら、日本はどうするのか。この疑問がメディアでも繰り返し報じられてきた。

しかし長尾氏は、「イランはホルムズ海峡の封鎖ができない」との見解を示した。

その理由は貿易構造にある。2017年の米エネルギー情報局(EIA)によれば、当時のイランの原油輸出先は中国24%、インド18%、韓国14%、トルコ9%、イタリア7%、日本5%、フランス5%、UAE5%、その他13%だった。ところが2023年には、その輸出の約90%を中国が占めるに至った。こうした構造上、ホルムズ海峡が封鎖されれば、最大の打撃を受けるのは中国になる。つまり「中国がいるから封鎖できない」という、皮肉な安定構造が現在の海上ルートを支えているというわけだ。

だが、そこに安住すべきではない。

安倍政権時代から、旧安倍派は「アラスカ経由での原油輸入ルート」の構築を模索してきた。民間エネルギー企業も当時、コスト面の課題を抱えつつ検討を進めていたが、実用化には至らなかった。しかし、今回の中東危機を受けて経済産業省が再び動き始めているという。

安倍総理は常に、日本のエネルギー安全保障を見据え、将来世代への責任を果たそうとしていた――その先見と覚悟が、今あらためて思い出されることとなった。

イスラエルとイランの衝突は、米国の圧力と調整によって収束の兆しを見せつつある。ここで我々が学ぶべきは、「正義」が世界を動かすのではなく、「力」が現実を変えるという事実である。

ただし、その「力」は必ずしも軍事力を意味しない。エネルギー・食料・経済・情報、そして教育――これこそが「安全保障の5本柱」なのだ。正しい情報を知らなければ、正しい判断も行動もできない。日本に必要なのは、幻想ではなく、現実を直視した外交と安全保障の設計である。

長尾氏の言葉は、そう締めくくられていた。

『こんなにひどい自衛隊生活』

著者略歴

小笠原理恵

https://hanada-plus.jp/articles/961

国防ジャーナリスト。関西外国語大学卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。 2009年、政治や時事問題を解説するブログ「キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。14年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。月刊『Hanada』、月刊『正論』、夕刊フジ、日刊SPA!などに寄稿。19年刊行の著書『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)は国会でも話題に。2022年10月、公益財団法人アパ日本再興財団主催・第15回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀藤誠志賞を受賞!産経新聞コラム「新聞に喝!」を担当。2024年12月、『こんなにひどい自衛隊生活』(飛鳥新社)を刊行。

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