珍しく完成度の高い特集!
さて、今週の「風をよむ」は「ガザ侵攻から1年」をテーマに、家族を失いながらも「憎まない」と宣言したガザ出身医師のアブラエーシュ氏の行動を中心に特集が展開されました。
ガザ侵攻から1年 家族を失いながら、あえて「憎まない」と訴える難民キャンプ出身の医師【風をよむ・サンデーモーニング】 | TBS NEWS DIG
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/148634710月7日、中東ガザにイスラエルが侵攻して、1年となりました。今なお、多くの犠牲者を出しながら、戦闘は一向にやむ気配がありません。その根本には、何があるのでしょうか。7日、イスラエルで、イスラム組織ハマ…
元村有希子氏:戦闘のきっかけを作ったのはハマスだという意見がある。ハマスが人質を取ったため自衛のために攻撃したと。でもその前に何十年という占領と入植、人権侵害の歴史がある。
そんなときにアブラエーシュ氏の「憎まない」というメッセージはとても強く響く。意思を持たないと人間は憎んでしまう。ハマスは人質を解放すべきだし、イスラエルは戦闘やめるべきだ。
畠山澄子氏:アブラエーシュ氏は「憎まない」と言っているが、怒りは持っている。怒りを憎しみに変えないことが凄く大事だと。私たちが学ばなければならないのは、不条理に抗っていくために怒りはとても大切であると。でも憎しんではいけないと。
松原耕二氏:番組でイスラエルの専門家にインタヴューした。敵に対して常に戦いを仕掛けていかないと敵は全てのイスラエル人を殺すだろうと。ホロコーストのトラウマがハマスの襲撃を機に再びイスラエル人の心を支配し始めたのではないかと。ネタニヤフ首相のやっていることはイスラエル人そのものではないかと。
100年かかって出来上がったトラウマに我々国際社会はどう向き合えばよいのか。
人間が特定個人に対してもつ一連の負の感情に【不快 displeasure】と【嫌悪 disgust】があります。
まず「不快」は受動的な負の感情であり、自分にとってリスクを感じる特定個人の行動・状態に対して発生します。また、不快の激しい感情が【怒り anger】です。
これらの感情の目的は特定個人の行動・状態を【改善 improvement】することにあります。
次に「嫌悪」は能動的な負の感情であり、特定個人を「嫌うべき対象」として意味づけてしまうことです。また、嫌悪の激しい感情が【憎悪hate】です。
人は、特定個人の不快な行動・状態を改善することができないことを確信すると、その特定個人を嫌い、憎むことになります。嫌悪の目的は特定個人を【回避 avoidance】することにあり、憎悪の目的は特定個人を【排除 exclusion】することにあります。
ここで、アブラエーシュ氏のもつ「怒り」は相手に改善することを求める受動的な感情であり、「憎しみ」は改善を期待できない相手を排除する能動的な感情です。ユダヤ人を殺害したホロコーストはまさに憎しみの感情の発現です。紛争解決には能動的に憎まないことが非常に重要なのです。
畠山氏の主張する「不条理に抗っていくために怒りはとても大切であるが憎しんではいけない」という命題は、感情心理学の理に適っています。
また、松原氏が指摘する通り、イスラエル人には【トラウマ trauma】が存在し、敵を憎しんでいます。これを癒すこともこの争いを終わらせるのに不可欠な条件といえます。
この特集は『サンデーモーニング』には珍しく完成度が高く、党派性を排除したコメントも的確であったと考えます。
ちなみに、問題の所在を示すことなく「裏金ガ~」「統一教会ガ~」を一方的に繰り返す『サンデーモーニング』の自民党報道は、改善を求める「怒り」ではなく排除を求める「憎しみ」が込められています。『サンデーモーニング』自身がこの特集から学ぶことは多いと思います(笑)