養育費の取り立てシステムも日本と全然違います。
日本では離婚後、裁判で養育費を支払うと約束しても、実行率が著しく低い。厚生労働省が公表している「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果」によれば、母子家庭のうち養育費を受けている世帯の割合は24・3%、父子家庭に至っては、養育費の支払いを受けている世帯はわずか3・2%です。もし、養育費を払ってもらおうと思ったら、裁判しなくてはなりません。
大変な手間と費用もかかるので、大多数は泣き寝入りしているのが現状です。
一方、イギリスは、もし養育費が支払われなければ、裁判をすることなく「Child Maintenance Service」(以下、CMS)という政府機関に連絡をするだけで、対処してくれます。
CMSが銀行に連絡し、養育費を支払っていない親になんの承諾もなしに、銀行口座から養育費を引き落とすことが可能です。もし、口座におカネを入れていなかった場合は、勤め先の会社に連絡、給料から養育費を天引きします。
さらに、口座や金融資産はすべて差し押さえることができ、それでも払わない場合には、住んでいる家も勝手に競売にかけることができます。
最終的に、養育費を支払わなければ、運転免許証、パスポートの取り消し、または一件の未払いにつき、6週間の懲役です。
つまり、養育費未払いのまま逃げることは、ほぼ不可能なのです。
これだけ、かなり強引な制度をつくることができたのも、日本と違ってイギリスが「国家主権」だからでしょう。
日本は国民主権的な考え方で、政府がなにか強引に物事を進めることができません。コロナ禍では、ロックダウンはもとより、医療体制すら整えられなかった。
イギリスも、昔からこういった「チルドレン・ファースト」の法律だったわけではありません。かつては、日本のように男尊女卑的な考え方を引きずったようなシステムで、妻は夫の所有物的な考えから、離婚は極めて厳しい要件でしか認められませんでした。
子供の権利もあまり尊重されていませんでしたが、マーガレット・サッチャーが政権末期に「1989年児童法」を制定、子供は親の所有物的な考えの制度から、全てにおいて子供に利益を優先する制度に改革されました。
この「1989年児童法」によって、子供の権利を守るために国家が強力に介入できるようになったのです。
日本も単独親権から「共同親権」、もっと言えば、イギリスのような「チルドレン・ファースト」のシステムに切り替えるべきでしょう。
単独親権派の乱暴な議論
私がツイッターでイギリスの例を紹介したら、こんな反論がきました。
「夫からのDV(ドメスティック・バイオレンス)やモラハラが離婚の原因だった場合はどうするんだ!」
「DV夫に住所がバレる!」
本当は、DVや子供に対する虐待が原因で離婚した夫婦に関しては、先ほどのイギリスの例のように、住所などがバレないよう別の対応策を考えればいいでしょう。
DVは離婚の唯一の原因でもなければ、世界的にも、離婚の原因のなかで半分にも満たない特殊ケースです。イギリスの分析では、DV家庭が7・5%で、当然、そのなかで離婚する確率が高くなります。
アメリカの分析では、DV(精神的なものを含む)は離婚の原因の約25%となっています。日本ではDVは離婚原因の第4位で全体の五5・6%。もっと高い可能性はありますが、離婚原因の過半数を占めることはないでしょう。
特殊例を持ち出して、全部にあてはめて共同親権に反対するのは、それこそ乱暴な議論です。
親の関係が悪くなったからといって、別居親に子供を会わせないという理屈は通りません。両親から教育を受ける子供の権利を奪う人権侵害です。
子供にとっても、両親から教育を受けられたほうがいい。当たり前のことですが、子供には母親から学ばなくてはいけないことと、父親から学ばなくてはいけないことがある。
また、両親がちゃんと教育にかかわることで、同居親の独りよがりでやらせている教育や進学先の選択など、その教育が本当に子供のためになっているか、チェック機能が働くようになります。
単独親権派には、単独親権がどのように子供の教育にとっていい影響を与えるのか、ぜひ説明してほしい。
なかには、単独親権を悪用している人もいます。私の友人は、離婚した元妻から「100万円支払えば子供に会わせる」などと、脅迫まがいのことをされていました。
繰り返しますが、単独親権派の懸念は、あくまで特殊ケース。創意工夫して、対処法を考えればいいだけ。
「あいつは嫌いだから子供を会わせたくない」などという親のエゴで、子供の権利を蔑ろにしてはならないのです。
小西美術工藝社社長。1965年イギリス生まれ。日本在住31年。オックスフォード大学「日本学」専攻。裏千家茶名「宗真」拝受。1992年ゴールドマン・サックス入社。金融調査室長として日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。2006年に共同出資者となるが、マネーゲームを達観するに至り2007年に退社。2009年創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社、2011年同社会長兼社長に就任。2017年から日本政府観光局特別顧問を務める。『デービッド・アトキンソン新・観光立国論』(東洋経済新報社、山本七平賞、不動産協会賞受賞)『日本再生は、生産性向上しかない!』(飛鳥新社)など著書多数。