円安が過度に進行してしまうとの心配は無用である。2国間の為替レートは、主に金利格差とインフレ率格差で決まる。我が国が一貫して低金利政策をとっているのに対し、米国が急激なインフレに対応するため急速に金利を引き上げたのが現在の円安の原因である。しかし、米国の実体経済に懸念が出てきており、やがて金利引き上げ局面から転換する可能性が高い。そうなれば、対ドルで円安が一方的に進行するということはない。
為替レートは2国間の経済状況の差を反映し、経済循環とともに循環している。もし、為替レートの変動が速すぎ、実体経済に悪影響を与えると政府が判断すれば、円買いの為替介入が行われるであろう。
我が国経済を再生するには、円安を活用し、企業収益の拡大を賃金上昇に結びつけ、消費を活性化し、2%の物価安定目標を持続的に実現することが重要である。それまでは粘り強く金融緩和を継続し、需要拡大に反する増税や歳出カットは避けなければならない。(2023.07.10国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
1955年和歌山県生まれ。1978年東京大学法学部卒業後、(旧)大蔵省入省。四国財務局長等を経て、2011年より政策評価審議官。2012年より2023年3月末まで、静岡県立大学教授。2012年12月、第二次安倍内閣発足と同時に内閣官房参与としてアベノミクスを推進する。米国でもデフレの危険性があったニューヨーク勤務時代(2000年~2003年)、ニューヨーク連銀のエコノミストとデフレの議論を徹底的に行ったのが、アベノミクスについて総理に進言したきっかけとなったという。2016年に駐スイス特命全権大使、駐リヒテンシュタイン特命全権大使と欧州金融経済担当大使も兼任した。