最近、1ドル=140円台の円安傾向が続いている。この円安が輸入品価格の上昇や、国内物価を外貨に換算した場合の「チープ・ジャパン」をもたらしているとの自虐的な批判も見受けられる。日銀の低金利政策が円安の一因になっているとして、低金利政策の修正や撤廃を主張する意見もある。
しかし、最近の円安の実態を見る限り、これらの批判や主張は的外れであり、これまで30年にわたって日本経済を苦しめてきたデフレや長期停滞から完全に脱却するためには、円安のメリットを最大限活用する必要がある。
日本経済再生に寄与
円安は、原材料等を輸入する企業にとってはコスト増となるが、輸出企業には増益を生む。グローバルにビジネスを展開する日本企業にとっても、連結決算時に外貨建ての海外所得を円建てに換算することによって利益が拡大するので、収益増に大きく貢献する。
これまでの長期にわたるデフレによって、国内総生産(GDP)を構成する需要項目のうち消費や投資が伸び悩んできた。半面、相対的に輸出のGDPに占める割合が大きくなり、円安による輸出拡大が経済成長に寄与する度合いが増している。また、輸出が拡大すれば設備投資も拡大し、収益が増えて賃金が上昇してくれば、消費の拡大にも寄与するはずである。さらに、アベノミクス以前の円高時に空洞化した製造業の国内回帰やインバウンド観光が拡大しており、円安は総合的に見て、日本経済の再生に寄与するのである。
他方、さらに円安が継続すれば、輸入企業の収益を圧迫するのみならず、価格転嫁によって物価が上昇し、消費者の負担が増え、経済成長を阻害するとの批判もある。しかし、現在起きている物価の上昇は、円安の影響もあるが、ウクライナ戦争などによる穀物・エネルギー輸出の制約、さらにはコロナ禍によるサプライチェーン(供給網)の分断がもたらす国際価格の上昇が主因である。