獅子奮迅の働き、安倍氏に感謝|櫻井よしこ

獅子奮迅の働き、安倍氏に感謝|櫻井よしこ

安倍首相は間もなく首相の座を後任に譲る。日本国も国際社会も、首相がどれほど重要で大きな役割を果たしたかを、首相が去った後になって改めて気づくことだろう。安倍首相はこの8年間、獅子奮迅の働きをした。そのことに国民として心から感謝し、お礼を言いたい。そして信じている。治療と休養の後に健康を取り戻した首相には、必ず三たび出番があると。


病を得た安倍晋三首相は13年前、崩れ落ちるように政権の座から去った。だが現在の首相は見違えるようだ。病を抱えながらも強く立ち続けている。辞任に先立って、予見し得る日本国の危機に対する手も講じていた。実力者として今後の日本を睥睨(へいげい)するかのような頼もしさが窺(うかが)える。首相は退いても自民党の中心軸であり続けるだろう。

退任後への見事な目配り

辞任表明当日の8月28日には、目下の最大懸案である今冬の新型コロナウイルス及びインフルエンザの流行に備えて、全国民を対象としたワクチン確保と高齢者や医療従事者への優先供給制度を正式決定した。もうひとつの眼前の危機、北朝鮮及び中国による核ミサイル攻撃に備える枠組みも整えた。専守防衛を夢見るパシフィズムに浸ってきた日本国では、先制攻撃の概念は危険視されてきた。安倍首相はこの非常識を打ち破り、対日攻撃の動きを察知した段階で敵基地攻撃を可能とする方向へと、舵を切った。

日本国と国民を守るのは日本国である。この当然のことを、安倍首相は言葉ではなく、政策で実現し続けた。祖父、岸信介と同じく、安倍首相は世論の受けが悪くとも国益に基づいて立法し続けた。支持率が下がっても怯(ひるま)ずに、秘密情報保護法や集団的自衛権の一部行使を可能とする平和安全法制をはじめ、国益に基づく決定を重ねた。憲法改正も唱え続けて、決してその旗を降ろさない。

国際社会においても首相は果敢に提言した。最も警戒すべき中国の脅威に備えてインド太平洋戦略を打ち出した。日米豪印の安全保障の協力体制も作った。経済においてはトランプ米政権の離脱を乗り超えて11カ国による環太平洋経済連携協定(TPP)をまとめ、欧州連合(EU)との経済連携協定も具現化した。

もう一度出番が来る

何より首相は日本国民の心に訴えた。祖国に誇りを持とう、と。人間も国家も歴史に学ぶのは当然だが、そのことは戦前の日本国の全面否定とイコールではない。戦後70年談話で首相はこの至極常識的なことに言及し、日本の未来世代が歴史について謝り続けるような状態に終止符を打つと宣言した。反省すべき点は反省しながらも、日本の歴史を前向きに評価したのである。

さらに、拉致問題を政治家の責務を象徴する課題と位置づけ、拉致被害者の奪還こそ国家の当然の責務であることをその行動で示した。

安倍首相は間もなく首相の座を後任に譲る。日本国も国際社会も、首相がどれほど重要で大きな役割を果たしたかを、首相が去った後になって改めて気づくことだろう。だから強調したい。安倍首相はこの8年間、獅子奮迅の働きをした。そのことに国民として心から感謝し、お礼を言いたい。そして信じている。治療と休養の後に健康を取り戻した首相には、必ず三たび出番があると。(2020.09.01国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

櫻井よしこ

https://hanada-plus.jp/articles/408

国家基本問題研究所理事長。ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業。「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局員、日本テレビ・ニュースキャスター等を経て、フリー・ジャーナリストとして活躍。『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で大宅壮一ノンフィクション賞、『日本の危機』(新潮文庫)を軸とする言論活動で菊池寛賞を受賞。2007年に国家基本問題研究所(国基研)を設立し理事長に就任。2010年、正論大賞を受賞。著書に『何があっても大丈夫』『日本の未来』『一刀両断』『問答無用』(新潮社)『論戦』シリーズ(ダイヤモンド社)『チベット 自由への闘い』(PHP新書)『朝日リスク』(共著・産経新聞出版)など多数。

国家基本問題研究所「今週の直言」
国家基本問題研究所「入会のご案内」

関連する投稿


菅首相に欠けている国家像|田久保忠衛

菅首相に欠けている国家像|田久保忠衛

自民党総裁選を戦った菅、石破茂、岸田文雄の3候補に共通するのは国家観の欠如だ。国際情勢の中で日本がいかなる位置にあるのかを正確に把握しない限り、国家観は生まれてこない。


菅政権は習主席を国賓で迎えてはならない|湯浅博

菅政権は習主席を国賓で迎えてはならない|湯浅博

日本が習近平主席の天皇陛下との会見に道を開けば、香港弾圧や軍事力による周辺国への恫喝を認めてしまうことになる。まして、習主席から天皇ご訪中を要請されれば、1989年の天安門事件後、天皇ご訪中により西側の経済制裁に風穴を開けてしまった悪夢の再来だ。


人道的危機下の南モンゴルに関与を|楊海英

人道的危機下の南モンゴルに関与を|楊海英

中国による南モンゴルへの弾圧がとまらない。いま小学生から高校生までの児童・生徒、そしてその保護者とメディア関係者、大学教師、公務員など、モンゴル人は民族を挙げて中国政府の文化的ジェノサイド政策に反対の声を上げている。モンゴル人たちの命を懸けた闘いに日本も積極的に関与し、モンゴル人を応援してほしい。


「反原発・親共産」の野党再編|梅澤昇平

「反原発・親共産」の野党再編|梅澤昇平

立憲民主党と国民民主党と野合によって「帰ってきた民主党」が誕生。このあとに来るのは、共産党、社民党などとの国政における選挙協力だ。日本を破滅させる「新・立憲民主党」に国民の支持は到底集まらない。今こそ国民民主党の残留組が日本維新の会と提携するなど新たな改憲勢力を形成すべき時だ!


中国は安全保障上の脅威|岩田清文

中国は安全保障上の脅威|岩田清文

中国に対して「懸念」という段階は過ぎている!米国防総省は9月1日の中国軍事力に関する報告書において、中国海軍の艦艇数は既に米海軍を凌駕したと述べた。このまま米中の軍事バランスが中国有利に推移していけば、中国による尖閣領有の既成事実化は間違いなく阻止できなくなる。


最新の投稿


カマラ・ハリスは米国の小池百合子|久保弾(ジャーナリスト)

カマラ・ハリスは米国の小池百合子|久保弾(ジャーナリスト)

米大統領選が目前に迫っている。バイデンが副大統領に指名しているカマラ・ハリス。もしバイデンが大統領になれば、史上初となる女性副大統領が誕生する。 黒人であることがフューチャーされることが多い彼女だが、実は、米国内の黒人からの人気は低いという。 日本のマスコミが伝えない、カマラ・ハリスの知られざる実態とは――。


アフターコロナの「突撃!隣の晩ごはん」|電脳三面記事

アフターコロナの「突撃!隣の晩ごはん」|電脳三面記事

ビル・ゲイツの妹(という設定)のライターが、ネットで話題になった事を斬りまくる、人気連載「電脳三面記事」。コロナ禍で食事の環境も変化があり、それに伴って食事にまつわるコンテンツも変わっていっております。あなたの本当に食べているものを教えてほしい!


零細企業の倒産が日本にとってプラスな理由|デービッド・アトキンソン

零細企業の倒産が日本にとってプラスな理由|デービッド・アトキンソン

厚生労働省の調査によると、このコロナ禍の影響で仕事を失った人は、見込みも含め、製造業では1万人を超えたという。しかし、目先の数字に一喜一憂してはいけない、大事なのは数字の「中身」だと、デービッド・アトキンソン氏は説く。 伝説のアナリストが、中小企業神話の嘘を暴く!


パーツ&破片コレクション|なべやかん遺産

パーツ&破片コレクション|なべやかん遺産

芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「パーツ&破片コレクション」!


中国に尻尾を振り、呑み込まれる韓国|山本光一

中国に尻尾を振り、呑み込まれる韓国|山本光一

クライブ・ハミルトン『目に見えぬ侵略』(小社刊)で中国のオーストラリア侵略計画が明らかになったが、中国の侵略はオーストラリアに留まらず世界各地で繰り広げられ、中でも韓国は、もはや中国にずっぽり呑み込まれてしまっている……。韓国語翻訳者として韓国に精通した著者が、中国の「目に見えぬ」ならぬ、露骨な「目に見える」侵略を徹底解説!(初出:月刊『Hanada』2020年10月号)