話は若干それる。平成10年に文芸評論家の江藤淳氏がフジサンケイグループの正論大賞を受賞し、前年受賞者の私と新聞用の対談をした。その際、私が、ブレジンスキー元米大統領補佐官が日本を米国の「事実上の保護国」と言っていると述べたら、江藤さんは「そんなことを言い出しましたか」とえらく驚き、対談後に英語の原文を是非読みたいと要望されたので、コピーをお送りした。
ところが、その後、石原慎太郎氏が「大統領補佐官ごときが日本を下僕と言っている」旨の文章を書いたり、テレビなどで発言したりし始めた。驚いたのは私である。もう一度原文をチェックしたが、「下僕」という英語は見当たらなかった。
江藤さんと石原氏は親しい。あくまでも推測だが、憤慨した江藤さんが石原氏に電話をかけ、米国の元高官が日本を下僕扱いしてけしからん、と息巻いたに違いない。それがブレジンスキーの表現にいつの間にかすり替わってしまったのではないか、と私は疑っている。
同じ時期に石原氏は共著で「『NO』と言える日本」を出版し、ベストセラーになった。自動的に日米同盟重視を唱える向きに痛烈なパンチを見舞ったものだが、よくぞここまで言ったと私は評価する。私は「強い日本」をつくったうえで米国と同盟すべきだというのが持論であって、方向性は一致する。石原氏の御冥福を祈るのみだ。(2022.02.07国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
国家基本問題研究所副理事長。1933年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、時事通信社に入社。ハンブルグ特派員、那覇支局長、ワシントン支局長、外信部長などを務める。1992年から杏林大学で教鞭を執る。法学博士。杏林大学名誉教授。専門は国際政治。国家基本問題研究所副理事長。美しい日本の憲法をつくる国民の会共同代表。著書に『戦略家ニクソン』『激流世界を生きて』『憲法改正、最後のチャンスを逃すな!』など多数。