独立を達成して以来、少数民族の反乱に悩まされてきた多民族国家ミャンマーで、唯一機能した国家機関が軍であった。しかし、10年前に軍部が段階的な民主化プロセスを開始した後も、欧米は軍部との関係構築に注力しなかった。欧米はアウン・サン・スー・チー氏だけに政治投資をし、スー・チー氏を事実上の聖人に祭り上げた後、イスラム教徒少数民族ロヒンギャの窮状をめぐり、スー・チー氏の指導力に失望を表明した。
今月のクーデターは米国のミャンマー政策の最大の弱みを浮き彫りにした。それは軍部との関係を構築しなかったことである。それどころか米国は軍部に背を向け、ロヒンギャの国外脱出を「民族浄化」であると決め付け、2019年11月にはミン・アウン・フライン国軍総司令官らに制裁を発動した。
制裁強化は最悪の選択
米国の間違いは、ミャンマーの軍部との関係構築拒否と軍首脳への制裁発動によって、民主化や二国間関係に影響を及ぼさずに軍部の内政への影響力を弱められると考えたことである。米国は軍部の全面支援が民主化継続のカギであり、さもなければミャンマーは軍政に戻るという単純な事実が分からなかった。
米国は軍部の民主化支援に動機を与えようとする代わりに、その逆を行った。米国の制裁は軍首脳が民主化方針を堅持する動機をなくした。そうした「アメがなく、ムチだけ」の対応は、軍首脳が選挙で選ばれた政府から権力を奪うのを促した。米国は重大な計算違いのせいで、新しい軍事政権への影響力をほとんど持たない。
今日、米国の政策にとって最悪の選択は、4分の1世紀近くに及んだ米国主導の厳しい制裁で気乗り薄のミャンマーを中国の腕の中へ追いやった2012年以前の状況へ回帰することである。それは米国のミャンマー政策失敗に輪をかけるだけだ。米国の提唱でミャンマーが国際的に孤立すれば、中国の習近平独裁政権はミャンマーで中国の利益を強力に推進する戦略的恩恵を受けることになる。