地方を救う「地方債の発行」という切り札|渡辺康平

地方を救う「地方債の発行」という切り札|渡辺康平

都道府県の財政力により休業要請の給付金について金額やスピードに格差がついたことは、国家の緊急事態である新型感染症対策において根本から見直す必要がある!今度さらなる感染症の脅威などを踏まえ、緊急事態宣言下での地方債の発行と日銀による地方債購入を早急に検討すべきだ!


緊急事態宣言後、ほとんどの自治体が休業要請や営業時間の短縮を要請しており、都道府県が何らかの支援金、協力金を準備すると発表しました。

東京新聞(5月2日)の調査によると、感染拡大を防ぐための休業要請に応じるなどした事業者に「協力金」を支払う都道府県が41に拡大し、予算額は計約3200億円と報じられています。多くの自治体が財源とする国の臨時交付金1兆円のうち、都道府県が自由に使える配分額は約3500億円で、41都道府県のうち、財政力がある東京都などを除く37道府県が交付金を財源とする意向です。https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020050290065900.html

財政力がある東京都は4月15日の段階で、都の休業要請に応じた中小企業に最大100万円を支給する「感染拡大防止協力金」を含む補正予算案を発表し、4月22日から開始しました。補正予算の規模は3574億円であり、他の自治体では決して真似できない額の予算額です。

埼玉県の支援金は最大30万円で、隣の東京都の最大100万円とは差があります。大野元裕埼玉県知事は21日の会見で、「国が手当てするべきだ。格差が生じるのは不本意であり、じくじたる思い」と話しました。(https://www.asahi.com/articles/ASN4P6RTVN4PUTIL020.html

地方公共団体の財政力を示す数値として「財政力指数」があります。総務省の全都道府県の主要財政指標(平成30年度決算)では、都道府県平均の財政力指数は「0.51」に対して、東京都は「1.17」です。財政力指数が1.0を上回れば、その地方自治体内での税収入や諸収入のみを財源として円滑に行政を遂行できるとして、地方交付税交付金が支給されない不交付団体となり、下回れば地方交付税交付金が支給される交付団体となります。

東京都はさらに政府の緊急事態宣言が延長される5月7日以降も、休業要請などを継続し、全面的に応じた中小事業者に「協力金」を追加支給すると発表しました。

休業要請に応じた事業主への現金給付を巡っては、東京都等が追加の支給を決めたことに対して、北海道の鈴木直道知事は、「追加対策は、臨時交付金の追加がないと財政力が豊かな東京都など以外では難しい」と述べています。

国家の緊急事態において、感染拡大防止のために休業要請された施設・店舗が、地方自治体における財政力の違いで協力金の有無や、金額に格差が出れば不公平感は否めません。




国の予算を待たなければならない地方の苛立ち

今回の新型感染症における経済対策は、とにかく遅いと批判の嵐が吹き荒れました。緊急経済対策が遅れた理由について数量政策学者の高橋洋一氏は「財務省が思い描く通常のペース」があると指摘しています。

高橋洋一氏の記事以下引用(https://www.j-cast.com/2020/03/26383077.html?p=all
〈日本のコロナ対策の予算面をみると、これまで「3段階」になっている。第一段階は2019年度予算の予備費、第二段階は4月からの2020年度予算、第三段階は2020年度補正予算。通常であれば、この順番はそのとおりだ。

3月いっぱいまでは、2019年度予備費を使う。毎年度予算では資金使途を定めない予備費があり、2019年度は災害時の緊急な財源手当てとして5000億円計上していた。これを使い、2月13日、3月10日にそれぞれ決定した新型コロナの緊急対応策を行った。

これで賄えなければ、本来は2019年度補正予算を行うべきだ。しかし、これはそれほど簡単なことでない。

2019年度は3月末までの予算であるが、3月の残り少ないときにわざわざ補正予算を組むのかというわけだ。しかも、3月は2020年度予算を参議院で審議中だ。(一部省略)

2019年度補正予算ではなく、2020年度予算の修正はどうだろうか。これは、コロナ対策を4月から大々的に行うアピールもでき、国民にも4月からの安心を与えることができる、まっとうな話だ。しかし、財務省はかたくなに拒否する。与党にも、予算案の修正があれば、政権が倒れるくらいの一大事と説明し、それが政界の「常識」にもなっている。たしかに、戦後の予算修正はごくわずかな例外的な例しかない。

こうしたことが、冒頭に書いた「3段階」の背景になっている。この手順に従えば、3月末の2020年度予算成立までは、第一段階の2019年度予備費、4月になったら、第二段階の成立した2020年度本予算を使う。それでも足らなければ、4月以降に2020年度補正予算を作り、それを使う。要するに、財務省が思い描いている「通常のペース」で予算を作るので、そのとおりに政策を考えるべきとなる。

一方、コロナはそんな財務省の思い描いたスケジュールなどまったく考えずに、ものすごいスピードで経済を落ち込ませている。〉

高橋洋一氏によれば、3月は2020年度の当初予算を参議院で審議中のため、2019年度補正予算や2020年度当初予算の修正という手法は、財務省の思い描いたスケジュールには合わないとして実現しなかったようです。

結果としては、高橋洋一氏の指摘通り、新型感染症対策を盛り込んだ国の令和2年度補正予算は4月30日に参議院にて可決され、協力金の財源となる予算が地方自治体に配分されました。

先ほど述べたように、財政力がある東京都は4月15日の段階で、都の休業要請に応じた中小企業に最大100万円を支給する「感染拡大防止協力金」を含む補正予算案を発表し、4月22日から開始しました。

東京都は既に4月22日から協力金を支給していますが、財政力がない地方自治体は、国の補正予算を待たなければ、協力金を出すことは出来ません。

私の住む福島県では、4月30日の国の補正予算通過後、5月5日の福島県議会臨時会にて県の補正予算を可決しました。福島県内の休業要請に応じた1事業者に10万円、最大30万円を支給します。

都道府県の財政力により休業要請の給付金について金額やスピードに格差がついたことは、国家の緊急事態である新型感染症対策において根本から見直す必要があります。

地方債発行という手段

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