【読書亡羊】「台湾認識」のアップデートはお済みですか?  野嶋剛『台湾の本音』(光文社新書)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする2024年最初の時事書評!


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「親台派」こそ読むべき理由

このように、本書を読むと「知ってるつもり」の台湾に対する認識が随所でアップデートされることになる。特に「親台派」が必読なのが〈台湾は「親日」と言っていいのか〉と題する第5章と、〈「台湾有事」は本当に起きるのか〉と題する第6章だ。

筆者(梶原)も決して例外ではないが、何となく台湾を「中国に押しやられているか弱い弟妹」のように思ってはいないだろうか。確かに中国の圧力は強烈であり、台湾が圧力に屈しないよう、台湾有事を起こさせないための日本からの施策やアピールは重要である。

しかし台湾には台湾の意志があり、国民意識はもちろん、政治力・外交力・経済力のいずれも、「未承認国家ではあるが一国のそれ」と捉えるべき強さも持っている。

つい先日も、能登半島地震発生直後に台湾が救援隊を申し出てくれたものの、日本政府がこれを断ったとする報道に、憤慨する向きもあった。

「ありがたい申し出を断るとは何事だ」というある意味素朴な心情の表明から、「某国に忖度したのでは」という政治的意図を勘繰るものまで反応は様々あった。これに対して、台湾外交部が見解を表明する一幕があった。

外交部の報道官は「台湾を断った」との言い方は「台日間の調整の事実とは合致せず、公平性を欠いている」とし、日本政府からは台湾の申し出に対して感謝が表明されたと明らかにした。

「台湾の善意を無にするとは何事だ!」というのは、相手を「弟妹」と見ているからこそではないか、と今一度自分の認識を確認したいところだ。むしろ台湾の表明は、お互いに対等な〝国家〟だからこそなされたものでもあるのではないか。

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