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山際澄夫の「左折禁止!」

【山際澄夫】被災者支援に与党も野党もあるものか

月刊Hanada2018年9月号』より

■力なく座り込む被災者の姿

梅雨明けは早かったのにセミが鳴かない、おかしいと思っていたら、突然、はじけたように鳴き始めた。拙宅は千葉県だが、未曾有の被害をもたらした西日本豪雨の幕開けと軌を一にしていた。その後の熱暑といい、異常気象を暗示していたかのようだった。

14府県に及んだ豪雨の被害の大きさには、息をんだ。200人を超える犠牲者の多くはまたしても高齢者だ。たまたま観たテレビは、家を失い、地域住民を失い、「もう村はなくなった。立ち上がる力がない」とうめく古老を映し出していた。

被害を最小限に食い止めようと、関係者が払った努力には頭が下がる。気象庁は、数十年に一度という豪雨が予想される、という異例の記者会見をし、すぐに地元の警察、消防は警戒にあたり、自衛隊は出動準備を整えていた。メディアの報道でも、時間の経過とともに事態が悪化するのが手に取るように伝わってきた。

災害発生後、すぐに被災地に入り、泥のかきだしなどで活躍した大勢の若いボランディアの躍動する姿は大きな希望だった。しかし、神経を逆なでされたことも多々あった。

とりわけ、ダムや河川、道路、鉄道などのインフラ復旧、支援物資の輸送などで陣頭指揮にあたるべき国土交通相が、豪雨被害の最中に3日間にわたって参院内閣委にはりつけになっていたのは、何とも理解し難かった。

そこで行っていたことは、カジノを外国人観光客誘致の核とする「統合型リゾート(IR)法案」の審議だった。審議を強行したのは与党だ。会期末を控えてなんとしても成立させたいということだったが、理由にならない。このため、委員会では「大臣はこんなところにいていいのか」と何度も嫌みをいわれる始末だった。

■被災者を見ていない政治家たち

もっとも、政府与党ばかりを責められない。野党は本気で政府与党をサポートするというよりは、与党の失点を喜んでいるようにも見えた。これこそ、森友、加計問題に発する、いまの国会の不毛な政治対立を象徴している。

自民党の国会議員数十人が、気象庁が異例の記者会見をした日の夜に懇親会を開き、参加者全員でお酒を手ににこやかに乾杯する写真がツイッターに投稿されたのもどうかと思う。その中心には安倍首相もいた。それによって災害対応が遅れたとまでは思わないが、その日夜までに3府県で11万人に避難指示が出ていたのだから、関係者はいい気がしなかっただろう。

安倍首相は何度も被災地入りし、「少しでも早く被災者の皆さんが罹災証明を手にし、生活再建に向けたスタートがきれるように全力を尽くす」と語った。その行動力には舌を巻くが、本当に実を伴っているのだろうか。

気がかりなのは、東日本大震災の被災地の多くが、人口が減っていることだ。なかには宮城県の南三陸町、女川町のように3割、4割も減ってしまったところもある。生活再建に尽力すると本気でいうなら、家や隣人を失った年寄りが「これで生活が再建できる。日本に生まれてよかった」と思えるようにすべきなのではないか。

そこで提案がある。被災者生活再建支援法の支給額の大幅増額である。大規模災害があると、きまって「激甚災害の指定を急ぐ」と報道されるが、これは自治体が行う復旧事業への国庫補助率が引き上げられる制度だ。それに加えて、災害対策では災害救助法、特定非常災害の指定などいろいろあるが、個人の生活再建の要となるのが、被災者生活再建支援法の適用である。

ところが、その支給額は、全壊でも最大300万円に過ぎず、半壊以下は対象にすらならない。その支給額を大幅に増やし、半壊や一部損壊も対象にする。個人の被害は補償しないという考えが障害になっているとしたら、この際、再検討すべきだろう。  大阪府では、災害救助法の応急修理の対象にならない半壊、一部損壊に対しても、無利子融資制度を全世帯に適用する制度を創設している。この程度のことは即刻やるべきだ。

その費用は、政府が、北朝鮮との国交樹立後に北に対して行うとしている巨額の経済援助に比べれば大した金額ではない。平成最大の犠牲者を出した豪雨の被災者支援に反対する野党はいないだろう。

 

山際澄夫さん連載中!

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著者略歴

  1. 山際澄夫

    ジャーナリスト 1950年、山口県下関市生まれ。産経新聞政治部で首相官邸キャップ、外務省キャップなど歴任。その後、ニューヨーク支局長、外信部次長などを経て退社。著書に『これでも朝日新聞を読みますか?』『すべては朝日新聞から始まった「慰安婦問題」』など多数。月刊『Hanada』で「左折禁止!」連載中。

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