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電脳三面記事 蛭゛芸子

「すべてが架空」なドタキャン騒ぎ

月刊Hanada2018年8月号』より

■ドタキャンは鉄板ネタ

テレビでは動物・子供・グルメが数字のとれる鉄板ネタだそうですが、SNSでのそれは、誤発注とドタキャンでしょう。

誤発注とは、小売店が桁を誤って大量に仕入れてしまったブツ(主に食べ物、例・プリン)を格安で販売し、その購入をSNSで呼びかける事案であり、仕入れた数が多ければ多いほどコンテンツとしての価値は上がります。ドタキャンとは飲食店で観測される事象で、予約していた客が来ないこと。これも貸切などで予約人数が多く、また客単価が高いほうがパワフルで、人々の心を掴みます。

そして、これらの困ってしまった小売店や飲食店が、SNSでの呼びかけに応じてやってきた客によって救われ、それをネットで知った人たちが安堵するところまでがワンセットです。

ただ、誤発注とドタキャンには決定的な違いがあります。それは、誰からも嫌われ、怒りの矛先を向けられる完璧な悪役の存在です。誤発注の根源はミス、ドタキャンの根源は土壇場でキャンセルした側です。これが教職員の集団など可燃性の高い存在だと爆発的炎上となるわけで、この春には埼玉の公立小学校教員25名のグループが槍玉に挙げられていました(のちに店側の誤解説が浮上)。

国際信州学院大学の教職員50名がうどん屋に対してドタキャン、さらにキャンセル料請求に対して逆ギレという狼藉を働いたのは、こうした空気が醸成されつつある平成最後の夏の始めのことでありました。

事の発端は、同大近くにある蛞蝓亭といううどん店のアカウントが5月中旬、同大教職員にドタキャンを食らった、とSNSで呟いたことでした。すると道徳的な人々が即時に反応、大学叩きが始まるのですが、実はこのうどん店は架空、そして大学も架空、したがって騒動も架空だったのでした。フェイクニュースだったのです。


■まさに「会心の一撃」!

しかし、国際信州学院大学は、いかにもな学校名と立派なホームページを備えており、非実在とされることへの注意喚起までしているくらいなのですから、記事タイトルを見ただけで感想をコメントしてしまうタイプのうっかりさんはまず騙されます。

SNSのアカウントも就職関連や図書館関連、公式キャラでいくつか持っており、学生アカウントも仕込み済み。そこでのやりとりをよくよく見ると、過去には教員による暴言など、炎上をしかけつつボヤに終わってしまっているケースも見られます。今回のドタキャン事案は、満を持しての会心の一撃だったと言えるでしょう。どんなネタなら多くの人の心にヒットするか、探究の結果たどり着いたのがドタキャンだったというわけです。

多くの人はドタキャンされる側に立ち、さらには、その側の人ほど声を大にしてそっちの側にいることを主張します。ドタキャンという極悪非道な行いにより、見目麗しくあつらえた料理の数々を廃棄せざるをえない状況に追い込まれることに怒りを覚えます。覚えないのは、レスに荒らしの喩えもある逆張りだけが人生の一握りの人たちでしょう。

やむを得ず涙をのまされる側に我々は弱いのです。「よかった、病気の子供はいないんだ」とジョニ黒のグラスを傾けてしまうのです(注・20世紀にそういうCMがあった)。

で、5月末、冷凍鶏肉を誤発注し、大量に仕入れてしまったので値引きするからみんな来てね、とSNSで表明する鶏肉系飲食店が、神戸は三宮に現れました。この流れだと、助けたくなっちゃいますよね。

でも、ご用心。その写真を見たある人物が、冷凍鶏肉は賞味期限が長いし、その価格設定なら十分に利益が出るという指摘で誤発注偽装集客疑惑が沸騰しました。店側はネット発注に切り替えたことによるミスで、冷凍庫に入りきらないと主張していますが、だとしても、もう「よかった、無駄な鶏肉はなかったんだ」とはならないのがSNS時代の現実なんですよね。

 

蛭゛芸子さんの連載が読めるのは『月刊Hanada2018年9月号』だけ!

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著者略歴

  1. 蛭゛芸子

    「ネットはよく分からないけれど文章に惹かれる」というオジサマファン多し。

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