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現場をゆく 門田隆将

結愛ちゃんの死と小池都知事の責任

月刊Hanada2018年8月号』より

■怠慢行政の犠牲になった結愛ちゃん

ある意味、それは小池都政の「本質」を示すものと言えるだろう。もし子供を虐待死させるなら「東京でやりなさい」といわんばかりの怠慢行政の末に「船戸結愛ちゃんが犠牲になった」ということである。

「もうパパとママにいわれなくても しっかりとじぶんから きょうよりか もっともっとあしたは できるようにするから もうおねがい ゆるして ゆるしてください」──東京・目黒区東が丘在住の結愛ちゃん(5)が3月に死亡した事件で、警視庁は6月6日、父親の船戸雄大(33)と母親の優里(25)を保護責任者遺棄致死容疑で逮捕した。

必死で生きようとした、わずか5歳の結愛ちゃんが綴った文章に涙しない人はいるだろうか。しかし、現実は、東京の大人たちは助けを求める結愛ちゃんを無視し、その生を奪った。そして、この悲劇に小池都知事も、さらには都議会与党の都民ファーストも背を向けた。そして今、非難の矛先が自分たちに向かないように懸命だ。いかにその責任が重いかを詳述する前に、事件を振り返っておこう。

最初に香川県善通寺市で虐待が発覚したのは2016年12月だ。寒空のもと、外でうずくまっていた結愛ちゃんを近所の人が発見し、児童相談所(以下、児相)が一時保護したのだ。翌年2月と5月に父親の雄大は傷害容疑で2度、書類送検される。7月に一時保護が解除されると、翌8月には、病院が結愛ちゃんの身体に痣を発見して児相に虐待通告をおこなっている。書類送検は2度とも不起訴になったものの、もはや、完全に行政そのものが結愛ちゃんを「助けなければならない」ケースであることを示していた。

船戸家は今年1月に東京に引っ越し、その情報は品川児童相談所に通知された。品川児相による家庭訪問は2月9日におこなわれた。だが、母親・優里は「娘は不在」と言い張り、面会は叶わなかった。ここで児相は警察に連絡すればいいのに、そのまま放置し、幼い命が救われる最後のチャンスは奪われた。死亡時、結愛ちゃんの体重は12.2キロで、平均体重の半分ほどしかなかった。

■なぜ東京で情報共有ができないのか

2000年5月に成立した児童虐待防止法は、相次ぐ虐待に対して、児相の権限を強化し、虐待の疑いがある場合、プライバシーの侵害をタテに虐待を隠蔽しようとする親たちへの対処として、自宅に立ち入って調査をおこなえるようになり、その際に警察官の援助を求めることもできるようになった。一時的に親の「親権」を停止させることができるなど、大きな権限を持つようになったのだ。

しかし、現場ではその法律の精神は今に至るも生かされていない。この問題に取り組むNPO法人「シンクキッズ─子ども虐待・性犯罪をなくす会」は、児相と警察の「全件情報共有」を求める要望活動をおこなっている。  同会代表理事の後藤啓二弁護士が言う。

「4年前から要望活動をおこない、国と都にはそれぞれ2度要望書を提出していますが、無視され続けています。しかし、愛知県では今年3月、要望の際に大村秀章知事が福祉部長をその場に呼び、『虐待でも緊急性の低い案件もあるので、それらは連携しません』と部長が説明すると、『それは危ない。一度家庭訪問しただけで緊急性が低いなどと断定できるはずがない。子供を守るために関係機関が幅広く連携してください』と指示され、直ちに警察との全件共有を実現していただきました。ほかにも、茨城や高知ではすでに全件共有を開始しており、埼玉、岐阜などでも全件共有することになっています。しかし、東京は、2回要望書を提出しても、いまだにナシのつぶてなんです」

3月に結愛ちゃんの死が明らかになった時、動いたのは、「かがやけTokyo」の上田令子都議だ。都議会で直ちに児相と警察との虐待情報の全件共有について質問したが、福祉保健局、教育委員会ともに「全件共有の必要なし」との答弁をしている。そして、全ての虐待案件の情報共有を求める陳情は、都議会厚生委員会では「継続審査」とされ、警察消防委員会では都民ファースト等の反対によって「否決」された。東京では一人の幼児の虐待死など、あくまで「他人事」なのだ。

だが、世間の目が厳しくなってきた6月13日の視察会見では、小池都知事は俄かに、「情報共有をスムーズにさせるために全国統一のルールを国で作ってもらうことができないか、厚生労働大臣に緊急要望する」と述べた。

お笑いというほかない。なぜなら、各都道府県の知事の指示で「全件共有」は即座に可能になり、前述の通り、他県では、すでに「できている」からである。そこで私は言いたい。子供を虐待死させるなら、「なんの問題意識も危機感もない東京へ来てやりなさい。東京とは、知事も与党もそのレベルの人たちですから」と。

 

櫻井よしこさんの「言論テレビ」で児童虐待の問題を取り上げた回はこちら。

文中に登場するNPO法人「シンクキッズ─子ども虐待・性犯罪をなくす会」の後藤啓二弁護士も出演しています。

 

 

門田隆将さんの連載は『月刊Hanada2018年9月号』でも!

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著者略歴

  1. 門田隆将

    ノンフィクション作家 1958年、高知県生まれ。中央大学法学部卒業後、新潮社に入社。週刊新潮編集部に配属され、記者、デスク、次長、副部長を経て、2008年4月に独立。週刊新潮時代は、特集班デスクとして18年間にわたり、800本近い特集記事を執筆。後世に残したい「素晴らしい日本人」をテーマに描く。著書多数。近著に『奇跡の歌~戦争と望郷とペギー葉山~』(小学館)、『汝、ふたつの故国に殉ず―台湾で「英雄」となったある日本人の物語』(角川書店)。オフィシャルサイト→http://www.kadotaryusho.com

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